「デパ地下」はなぜ地下?その成り立ちと歴史

手土産のお菓子から今晩のおかずまで、ワクワクするデパ地下の成り立ちと歴史を巡る。

「デパ地下」の由来

デパ地下という言葉が生まれたのは平成

「デパ地下」はデパートの中でも特に強い集客力を持つ人気フロア。
多くのデパートが地下で和菓子、洋菓子、お惣菜、生鮮食品、グロッサリーを取り扱っている。 デパ地下という言葉ができたのは1990年代後半。言葉としてはかなり新しい。 はっきりとした初出は明らかになっていないが、中食ブームやデパートが食品部門に力を入れ始めたことが由来になっている。 90年代の平成不況により、デパートの中でも低価格帯の食料品需要が伸びたことも影響しているだろう。
そんな中で1991年に食品売り場を大幅に強化した阪神百貨店の成功例や、2000年に開業した東急フードショーなどが火付け役となった。 これにより多くのデパートが食品を扱う地階だった場所が「デパ地下」として注目されるようになり現在に至る。

その成り立ち

デパ地下の起源は90年前から

デパ地下という言葉が生まれたのはこの30年だが、百貨店に地下の食品売り場が登場したのは90年ほど前。
百貨店の歴史において日本で初めてのデパ地下とされるのが、高島屋と松坂屋。
これには解釈により諸説ある。 まず1922年に高島屋が初めて大規模な百貨店を大阪市長堀に開店した際、食料品売り場を地下に設けた。これをもって日本初のデパ地下とするのが一説。 つぎに1936年に松坂屋名古屋店が東西名店街と題して総菜などの食品名店をあつめた売り場を地下に設けた。これを日本初のデパ地下とするのが一説である。 つまりグロッサリーなどの食品を地下で取り扱い始めたのは高島屋が初めてであるが、総菜屋などの店を集めて地下で販売したのは松坂屋が初めてということ。
ここは解釈が分かれるところだが、どちらにせよ当時として斬新な取り組みであったのは間違いない。

 高島屋長堀店。高島屋初の大規模百貨店、地階で食料品を扱った。引用(1)
高島屋長堀店。高島屋初の大規模百貨店、地階で食料品を扱った。引用(1)

デパ地下はなぜ地下?

地下にある3つの理由

デパ地下が地下にある理由は主に3つある。

1. 水道管やガス管などのインフラが整っていること
食品の調理提供には水道やガスが必要だが、それらは地下にある。そこで地下に調理場などを設けることが効率的であるため。

2. 地下鉄との接続で客の流入が多いこと
これは都市部の百貨店に見られることだが、東京メトロ銀座線の開業以降、多くの百貨店が地下鉄駅と接続してきた。 客の流入が多い地下に単価が低く、普段使いしやすい食品売り場を設けた。これにより入りやすく買いやすいフロア構成を目指している。

3. 搬入口が近いこと
生鮮食品や総菜などは商品や原材料の流入が毎日頻繁に発生する。大量の商品搬入を行う際は地下のほうが都合がよい。地上から1フロア降ろすこともできるし、地下に荷捌き場を設けてそのまま搬入することもできる。

これらの理由から多くのデパートが食料品売り場を地下に設けている。
しかし、百貨店の歴史を見ていくとデパ地下をあえて最上階に設けた勇気あるデパートが存在する。

 阪神梅田本店。地下街と直結することで強い集客力を活かすことができる
阪神梅田本店。地下街と直結することで強い集客力を活かすことができる

東急渋谷本店

歴史上唯一?デパ屋があった百貨店

百貨店の歴史上唯一、食品売り場を最上階に設けた珍しい例がある。
1967年に開店した東急渋谷本店だ。東急渋谷本店は開業時に食品売り場を最上階の8階に設けた。これは当時コンセプトとしてファッションデパートを打ち出したことに起因している。 東急渋谷本店は近隣の東横店との差別化のために多くのフロアをファッションに割いた。また、当時のモータリゼーションを受け駐車場を地下に設置したことで食料品売り場を別のフロアに入れざるを得なくなった。

しかし、食品売り場を最上階に設けることは前代未聞。
特に商品の搬入では大きな障害となった。生鮮食品、日配品を毎日最上階まで持ち上げるのは一苦労であったという。結局1990年の全館リニューアルにて、他の百貨店と同じく地下に食品売り場を置くこととなった。

そこから現在に至るまで最上階に食料品売り場を置いたデパートはない。最近の例として2024年に西武池袋本店が全館改装によって期間限定で7階に食料品売り場を設置した。その効果と動向が注目されている。

1967年の東急百貨店本店と東横店のフロア構成。本店はファッションフロアが目立つ。8階の食堂に食品売場が設けられた。引用(2)
1967年の東急百貨店本店と東横店のフロア構成。本店はファッションフロアが目立つ。8階の食堂に食品売場が設けられた。引用(2)

引用
(1) 高島屋(1982). 『高島屋150年史』.
(2) 東京急行電鉄社史編纂事務局(1973). 『東京急行電鉄50年史』. 東京急行電鉄.

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